あなたは今の仕事を辞めたいと思ったことがありますか？

それでも辞めなかったのはなぜですか？

そんなシンプルな疑問を、さまざまな職業人にぶつけてみました。

今まさに辞めようかどうか迷っているすべての方へ。

あの人の辞めるのやめた話から、つづけることの意味が見えてくるかも。



#01は、ヘアサロン「Labyrinth」代表 西尾隆介さんのお話を、全3回（前編・中編・後編）にわたってお届けします。波乱万丈の若手～中堅時代を乗り越え、今改めて思うこと、これから目指すものとは？

続いては、オーナーとして人事に苦戦した30代を振り返る【中編】です。

→【前編】はこちら



＜今回の辞めるのやめた人＞

ヘアサロン「Labyrinth」代表 西尾隆介さん

1982年生まれ、高知県出身。2003年にNRB日本理容美容専門学校卒業後、大阪府内のヘアサロン勤務を経て2012年に独立、大阪・心斎橋に「Labyrinth」をオープン。現在は同店に加え、大阪・寝屋川に「Labyrinth yume」「Labyrinth noble」と、鳥取・米子にヘアカラー専門店「Kirei Yonago」を展開。また、2020年にヘアケアブランド「labyness」を立ち上げ、オリジナルヘアケア製品の開発・販売をスタートさせた。 

https://labyrinth-hair.com/

＠nishioryusuke



30歳で独立、オーナーとして順調なスタート。

 ―ひたすら売り上げアップと売り込みに励んだ20代を経て、独立されたのはいつですか？

2012年、ちょうど30歳の時に「Labyrinth」をオープンしました。最初は大阪・心斎橋のアメリカ村にあって、8坪程の広さでセット面が3台とシャンプー台が1台の小さな店。その1年半後に、現在の場所に移転・拡大オープンしました。



 ―わりと順調なスタートでしたか？

売り上げは順調でした。青文字系の関西女性ファッション誌が全盛の時代、誌面で活躍するモデルさんたちに通っていただいていたので、彼女たちに憧れる読者の方の来店も多かったです。あとは、業界誌の仕事が増えたりコンテストで優勝したり、注目していただける機会が増えて、お店の宣伝や集客につながっていました。

▲心斎橋を皮切りに店舗数も増えていきます（写真は寝屋川の「Labyrinth noble」）



 ―売り込みと自己研鑽に励んだ甲斐あってのことですね。

それと、mixiやYahoo!ブログ、アメブロ、Instagramといったブログ、SNSを活用して、自ら情報発信に努めていました。ずっと続けていく中で、「ブログ見ました！」とお店に来てくださるお客様も増えたので、これは十分効果があるなと。実際に運用しながら読まれるコツなどを掴んでいきました。



 ―その時々で新しいメディアをいち早く取り入れて集客につなげていったと。若い頃から発信力も鍛えていて、結果が出るまで徹底的にやり続けるのもすごいです。

何でも中途半端は良くないと思っています。今はYouTubeに力を入れていて、この2年半毎日動画をアップしているんですが、こっちはまだ結果が出ていません。まぁ、あと5年はやり続けますけど（笑）。



ストイックなオーナーを横目に、続々と辞めるスタッフたち。

 ―30代になり、オーナーになり、20代の頃とはまた違う悩みが出てきたかと思うのですが。

まったく違いますよね。独立して店舗を増やし、スタッフを増やしていく中で、絶対に離職者を出したくない！ というのが最初に掲げた一番の目標だったのですが、全然無理でした。僕としては、それぞれの店舗の悪いところが見えていて、そこを解決したら上手くいくと思っていたのですが大きな間違いで。分かっているつもりになっていただけでしたね。



 ―その悪い部分、解決した部分というのは？

厳しくするのがダメなんだと思って甘くしても辞める、人気店だけどハードワークなのが無理なんだと思って余裕のあるシフトにしてもやっぱり辞める。結局答えは無かったです。



 ―どうやったって辞めると。人に流されず、自分に厳しくやってきた西尾さんだけに、なおさら理解不能ですよね。

そこで初めて、「みんな僕みたいじゃないんだ」と気づきました。僕に憧れて入ってくれるスタッフもいましたが、いざ一緒に働いてみると想像よりずっと異常な人だと思われて（笑）。「そんなに頑張れません」と言って辞められる。そこから考え方を改めるようになりました。

▲ここから西尾さん流の働き方改革が始まります



辞める以外の選択肢を用意、終身雇用への挑戦。

 ―スタッフが定着しないことを受けて、どのように考え方を改めていったのですか？

まず、美容師としてバリバリ働いて活躍したいという人もいれば、適度にやりたいという人もいる。オーナーの立場からすると普通はふざけるな！ なんて言ってしまいそうなところですが（笑）、正直に話してくれるのは良いことですし、そういう人の存在も認めて、活かせるサロンにしていこうと思うようになりました。



 ―確かに、業界問わずバリバリ上を目指したい派と、ほどほどにやっていきたい派の二極化が進んでいると感じます。どちらが良い・悪いではなく。

そうですね。あとは、集客も求人もしっかりとペルソナを設定して、きちんとそれを軸に展開していくべきだなと再認識しました。どんな人でも良いからとりあえず来てほしいという集め方をしてしまうと、結局ミスマッチにつながって定着しないので。 



 ―方向性の違いに気づかないまま入社すると続かないですよね。

えぇ。お店の雰囲気やお客様のテイストと、本人のやりたいことが合っているかどうかは採用時にしっかり確認するようになりました。それと、そもそも一番問題だと感じたのが、美容師の将来性についてです。 

▲美容師が長く続かない理由、一気に核心に迫ります



 ―美容師の将来性？

美容師って10～20代はがむしゃらに働く下積みで、30代になったら独立するというのが一般的。オーナーとしては、いかに10～20代のスタッフを雇用し続けて、店を回し続けるかという経営になるんです。仮に独立せず店に残ってくれたとしても、バリバリ働けるのって頑張って40歳ぐらいまでかなと。その先まだ経験値は上がるにしても、売り上げのピークはそれぐらいだと思うんです。少なくとも体力のピークは過ぎて落ちていくので。そうなると必然的に所得が下がり、結局そのタイミングで店を離れて自分でやっていくのか、美容師を辞めるのかという選択になってしまう。



 ―意欲があったとしても長く活躍し続けられるシステムではないと。

はい。長年続けてきたのにもったいないですし、ずっと付いてくださっていたお客様にも申し訳ない。そんなことを考えるうちに、もし僕が独立した意味があるとしたらこれだなと。こうした現状を変える会社にしていきたいという思いが強くなりました。



 ―それで「Labyrinth」は採用のテーマに“終身雇用”を掲げているんですね。その実現のためにどのような取り組みをされているのですか？

一番大きいのは、2020年にヘアケアブランド「labyness」を立ち上げ、オリジナルヘアケア製品の開発・販売を始めたことです。そこから色々な働き方ができるようになりました。

▲オリジナルブランド「labyness」が終身雇用の切り札に!?



―新たな働き方を選べるようになったと？

例えば、ずっと美容師として働きたいけど、年齢を重ねて体力的にしんどくなってきた場合、週3日はサロンワークで、残り週2日は内勤でブランド関連の業務を行うとか。営業でも販売でも宣伝・広報でも、本人の興味や得意なことを活かして何かできることをやるスタイルです。



 ―それは夢がありますね！

それが、初めてこの構想をスタッフの前で話した時、盛り上がるかと思いきや全然で。みんな最初はとまどいのほうが大きかったみたいです。それで去っていく人も少なからずいましたが、今は同じ将来像を共有するスタッフたちがそれぞれに頑張ってくれている状態です。



 ―一方で、特に女性が気になる部分として伺いますが、結婚・出産・子育てなどを経て働き続けている方も多いのでしょうか？

もちろん。いわゆる休眠美容師から復帰して活躍しているスタッフもいますし、家事や子育てと両立しながらパートタイマーとして働いているスタッフも多くいます。本当に色々な考え方や事情がある中で、一人ひとりが自分に合った働き方を選べるような環境は整ってきたかなと思います。



こうして、30歳でオーナーという立場になり、スタッフが辞めずに長く続けられる働き方を模索し続けた西尾さん。その結果踏み込んだヘアケアメーカーという新たなフィールドで、今どのように戦っているのか？ また、20年以上美容師を続けてきたからこそ見えたもの、今改めて思う美容師という仕事の魅力とは？ 【後編】へ続きます。 

あなたは今の仕事を辞めたいと思ったことがありますか？

それでも辞めなかったのはなぜですか？

そんなシンプルな疑問を、さまざまな職業人にぶつけてみました。

今まさに辞めようかどうか迷っているすべての方へ。

あの人の辞めるのやめた話から、つづけることの意味が見えてくるかも。

#01は、ヘアサロン「Labyrinth」代表 西尾隆介さんのお話を、全3回（前編・中編・後編）にわたってお届けします。波乱万丈の若手～中堅時代を乗り越え、今改めて思うこと、これから目指すものとは？

続いては、オーナーとして人事に苦戦した30代を振り返る【中編】です。

ヘアサロン「Labyrinth」代表 西尾隆介さん

1982年生まれ、高知県出身。2003年にNRB日本理容美容専門学校卒業後、大阪府内のヘアサロン勤務を経て2012年に独立、大阪・心斎橋に「Labyrinth」をオープン。現在は同店に加え、大阪・寝屋川に「Labyrinth yume」「Labyrinth noble」と、鳥取・米子にヘアカラー専門店「Kirei Yonago」を展開。また、2020年にヘアケアブランド「labyness」を立ち上げ、オリジナルヘアケア製品の開発・販売をスタートさせた。 

30歳で独立、オーナーとして順調なスタート。

 ―ひたすら売り上げアップと売り込みに励んだ20代を経て、独立されたのはいつですか？

2012年、ちょうど30歳の時に「Labyrinth」をオープンしました。最初は大阪・心斎橋のアメリカ村にあって、8坪程の広さでセット面が3台とシャンプー台が1台の小さな店。その1年半後に、現在の場所に移転・拡大オープンしました。

―わりと順調なスタートでしたか？

売り上げは順調でした。青文字系の関西女性ファッション誌が全盛の時代、誌面で活躍するモデルさんたちに通っていただいていたので、彼女たちに憧れる読者の方の来店も多かったです。あとは、業界誌の仕事が増えたりコンテストで優勝したり、注目していただける機会が増えて、お店の宣伝や集客につながっていました。

▲心斎橋を皮切りに店舗数も増えていきます（写真は寝屋川の「Labyrinth noble」）

―売り込みと自己研鑽に励んだ甲斐あってのことですね。

それと、mixiやYahoo!ブログ、アメブロ、Instagramといったブログ、SNSを活用して、自ら情報発信に努めていました。ずっと続けていく中で、「ブログ見ました！」とお店に来てくださるお客様も増えたので、これは十分効果があるなと。実際に運用しながら読まれるコツなどを掴んでいきました。

―その時々で新しいメディアをいち早く取り入れて集客につなげていったと。若い頃から発信力も鍛えていて、結果が出るまで徹底的にやり続けるのもすごいです。

何でも中途半端は良くないと思っています。今はYouTubeに力を入れていて、この2年半毎日動画をアップしているんですが、こっちはまだ結果が出ていません。まぁ、あと5年はやり続けますけど（笑）。

ストイックなオーナーを横目に、続々と辞めるスタッフたち。

―30代になり、オーナーになり、20代の頃とはまた違う悩みが出てきたかと思うのですが。

まったく違いますよね。独立して店舗を増やし、スタッフを増やしていく中で、絶対に離職者を出したくない！ というのが最初に掲げた一番の目標だったのですが、全然無理でした。僕としては、それぞれの店舗の悪いところが見えていて、そこを解決したら上手くいくと思っていたのですが大きな間違いで。分かっているつもりになっていただけでしたね。

―その悪い部分、解決した部分というのは？

厳しくするのがダメなんだと思って甘くしても辞める、人気店だけどハードワークなのが無理なんだと思って余裕のあるシフトにしてもやっぱり辞める。結局答えは無かったです。

―どうやったって辞めると。人に流されず、自分に厳しくやってきた西尾さんだけに、なおさら理解不能ですよね。

そこで初めて、「みんな僕みたいじゃないんだ」と気づきました。僕に憧れて入ってくれるスタッフもいましたが、いざ一緒に働いてみると想像よりずっと異常な人だと思われて（笑）。「そんなに頑張れません」と言って辞められる。そこから考え方を改めるようになりました。

▲ここから西尾さん流の働き方改革が始まります

辞める以外の選択肢を用意、終身雇用への挑戦。

―スタッフが定着しないことを受けて、どのように考え方を改めていったのですか？

まず、美容師としてバリバリ働いて活躍したいという人もいれば、適度にやりたいという人もいる。オーナーの立場からすると普通はふざけるな！ なんて言ってしまいそうなところですが（笑）、正直に話してくれるのは良いことですし、そういう人の存在も認めて、活かせるサロンにしていこうと思うようになりました。

―確かに、業界問わずバリバリ上を目指したい派と、ほどほどにやっていきたい派の二極化が進んでいると感じます。どちらが良い・悪いではなく。

そうですね。あとは、集客も求人もしっかりとペルソナを設定して、きちんとそれを軸に展開していくべきだなと再認識しました。どんな人でも良いからとりあえず来てほしいという集め方をしてしまうと、結局ミスマッチにつながって定着しないので。 

―方向性の違いに気づかないまま入社すると続かないですよね。

えぇ。お店の雰囲気やお客様のテイストと、本人のやりたいことが合っているかどうかは採用時にしっかり確認するようになりました。それと、そもそも一番問題だと感じたのが、美容師の将来性についてです。 

▲美容師が長く続かない理由、一気に核心に迫ります

美容師って10～20代はがむしゃらに働く下積みで、30代になったら独立するというのが一般的。オーナーとしては、いかに10～20代のスタッフを雇用し続けて、店を回し続けるかという経営になるんです。仮に独立せず店に残ってくれたとしても、バリバリ働けるのって頑張って40歳ぐらいまでかなと。その先まだ経験値は上がるにしても、売り上げのピークはそれぐらいだと思うんです。少なくとも体力のピークは過ぎて落ちていくので。そうなると必然的に所得が下がり、結局そのタイミングで店を離れて自分でやっていくのか、美容師を辞めるのかという選択になってしまう。

―意欲があったとしても長く活躍し続けられるシステムではないと。

はい。長年続けてきたのにもったいないですし、ずっと付いてくださっていたお客様にも申し訳ない。そんなことを考えるうちに、もし僕が独立した意味があるとしたらこれだなと。こうした現状を変える会社にしていきたいという思いが強くなりました。

―それで「Labyrinth」は採用のテーマに“終身雇用”を掲げているんですね。その実現のためにどのような取り組みをされているのですか？

一番大きいのは、2020年にヘアケアブランド「labyness」を立ち上げ、オリジナルヘアケア製品の開発・販売を始めたことです。そこから色々な働き方ができるようになりました。

▲オリジナルブランド「labyness」が終身雇用の切り札に!?

―新たな働き方を選べるようになったと？

例えば、ずっと美容師として働きたいけど、年齢を重ねて体力的にしんどくなってきた場合、週3日はサロンワークで、残り週2日は内勤でブランド関連の業務を行うとか。営業でも販売でも宣伝・広報でも、本人の興味や得意なことを活かして何かできることをやるスタイルです。

それが、初めてこの構想をスタッフの前で話した時、盛り上がるかと思いきや全然で。みんな最初はとまどいのほうが大きかったみたいです。それで去っていく人も少なからずいましたが、今は同じ将来像を共有するスタッフたちがそれぞれに頑張ってくれている状態です。

―一方で、特に女性が気になる部分として伺いますが、結婚・出産・子育てなどを経て働き続けている方も多いのでしょうか？

もちろん。いわゆる休眠美容師から復帰して活躍しているスタッフもいますし、家事や子育てと両立しながらパートタイマーとして働いているスタッフも多くいます。本当に色々な考え方や事情がある中で、一人ひとりが自分に合った働き方を選べるような環境は整ってきたかなと思います。

こうして、30歳でオーナーという立場になり、スタッフが辞めずに長く続けられる働き方を模索し続けた西尾さん。その結果踏み込んだヘアケアメーカーという新たなフィールドで、今どのように戦っているのか？ また、20年以上美容師を続けてきたからこそ見えたもの、今改めて思う美容師という仕事の魅力とは？ 【後編】へ続きます。 

つづける、ということ。～あの人の、辞めるのやめた話～ #01「Labyrinth」代表 西尾隆介さん【中編】

ライター歴18年目。さまざまな職業人の人生模様に迫るインタビュー取材・執筆がライフワーク。『AM-YU』では、インタビュー企画「つづける、ということ。～あの人の、辞めるのやめた話～」を連載中。ライブ感重視のイベントレポも随時アップしていきます。

つづける、ということ。～あの人の、辞めるのやめた話～ #01「Labyrinth」代表西尾隆介さん【中編】

0件のコメント

オススメ記事

SOLAS 漁野さんに聞く10のこと～僕・私のスタイルの作り方～

MY　CULTURE　#36 辻のぞみ／「manhood haus」オーナー

シーンの第一線で活躍するDaBのHARUTOさんに聞く「東京で働くこと」【前編】

MY　CULTURE　#35 NATANE／ヴィジョナリークリエイター

KON 清原さんに聞く10のこと～僕・私のスタイルの作り方～

世界最大級のヘアデザインコンテスト