後編・アムステルダムで活躍中のヘアメイクアーティストHAKAHに聞く! -美容師とヘアメイクの違いについて-
サロンをフィールドとする“美容師”と撮影やコレクションをメインに活動する“ヘアメイク”。美を追求する2つの仕事に大きな違いがあるのか? 日本からオランダに渡り、双方の仕事をこなすHAKAHさんにそのギモンを聞いてみました。HAKAHさんからの逆質問から始まったインタビューは、氏の経験から裏打ちされた言葉の数々に注目です。 美容師がライターならヘアメイクは小説家!? 美容師とヘアメイクの違いについて、ちなみにライターさんはどんな印象を持っていますか? ―自分の業界で例えるなら、一般的な物書きとされるライターが美容師で、唯一無二の作品を生み出すような小説家はヘアメイクさんなのかなと思っています。 それをお聞きしたうえでライターさんは小説の一部を提供できるというか、この文章がカッコ良かったから一部を切り切り抜き、読者の方を惹きつける文章を執筆する感じじゃないかと。我々の業界に置き換えるなら、美容師はヘアメイクの小説的なエッセンスをお客さんに手軽に提供できるようなイメージですかね。「小説は長くて読むのがしんどい」という方のために、「このフレーズなら気軽に読めますよ」とあらゆる言葉を選んで持ち帰ってもらえるように、技術を磨くのが美容師にとって必要なスキルなんじゃないかと。 ―やはりヘアメイクというお仕事は小説家に近いということでしょうか? そうですね。クリエイティブな作品を生み出す一方、気軽に自宅に持ち帰ることができませんが。広告に使われたり、どこかのポスターになったりするので。その点、美容師は簡単にその日に持ち帰られる、髪の毛のアートを生み出す方たちなのかなと思います。 それぞれに必要なスキルを高めて欲しい。 ―両方の仕事をこなす方も多いですよね? サロンワークをこなしながら、アーティストのMVやライブのバックステージでスタイルを作るなど、兼任されている方は多いですね。僕もどちらもできて欲しいと考えています。 ―それぞれの仕事で必要となるスキルは? 美容師はカットだけでじゃなくてパーマやカラーリングのテクニックも必要ですよね。それよりもゲストの要望にちゃんと応えられるか、またその人に本当に似合うヘアスタイルを作れるのかも大切。お客さんが満足していたとしても、例えば流行りの韓国アイドルのようなスタイルを真似て簡単に作っているようでは、その人の美容師としての価値が上がらないと思いますし。 ―逆にヘアやメイクのアーティストに関しては? 純粋にカッコいいものが作れるかどうかも必要なんですが、モデルさんへのケアもヘアメイクのアーティストとして必要なスキルなんですよ。中にはアレルギーを持った方もいたり、動物実験をされたスタイリング剤を使うのがNGな方がいたりと、本当にあらゆるモデルさんがいらっしゃいます。過去にはとあるサロンのモデルさんで、どうしても金髪の状態を保たない方がいました。頭皮を触ると「痛い」と言われるほどダメージを受けていて。髪色もアレンジできないし、スタイリング剤も使えない。さらにこれ以上、モデルさんの肌を荒れさしてしまうと「僕らは何のためのプロフェショナルとして仕事してんねん」となりますよね? どうしてもヘアメイクのこだわりが通らないという現場が必ず訪れるんです。 ただ髪を切ってヘアを作るだけじゃないケアが必要。 ―HAKAHさんの場合はあらゆるモデルに対応するスキルをどうやって養いましたか? 僕の場合はオランダに来て、モデルさんの多様性に直面して鍛えられました。自宅には段ボール4箱分に渡ってヘアスプレー・ムース・ワックスといったプロダクトがあって、モデルさんの髪質に合わせて使い分けていますね。もちろん、前述のように肌が荒れた人には、水と僕が作ったオーガニックのヘアオイルだけを使ってスタイリングします。 ―美容師もヘアメイクも向き合う人が異なるのも特徴ですね。 僕の場合は両方の仕事をこなしていますが、ヘアメイクだと先ほどのようにモデルさんのケアも大切にしています。美容師ならただ切るだけじゃなくて、髪質などの悩みを聞きながらお客さんと向き合って仕事をしていますね。 HAKAH 2019年から活動の場をオランダへ。ヘッドプロップの制作やヘアデザインにまつわるクリエーションに携わり、現地で企業を立ち上げてオリジナルのヘアオイルをプロデュース。 HP:ohl-records.com Instagram:@hakahair
前編・アムステルダムで活躍中のヘアメイクアーティストHAKAHに聞く! -海外でのお仕事について-
より一歩先の現場で活躍したいと考えるヘアメイクアーティストなら、誰しもが羨望の眼差しを注ぐ海外のフィールド。拠点とする場所もさることながら、そもそも日本と海外で取り組む仕事について違いはあるものなのか? そんな純粋なギモンに応えるべく、実際に海外で活躍するヘアアーティストのHAKAHさんにインタビュー。オランダの名立たるブランドのルックを手掛けるほか、パリコレの現場でも活躍する氏の言葉から、海外で働くことの楽しさや厳しい現実について語ってもらいました。 2019年からオランダを拠点に活動をスタート。 ―HAKAHさんは日本で何年くらいヘアアーティストとして活動していたんですか? 3年ほどですね。雑誌や広告でヘアメイクを手掛けたり、友人が営むマンツーマンの美容室でたまにヘアカットもしたり。ただ、そのときから安定して日本にはおらず、年に3回くらいは海外のコレクションに参加していたんです。 ―その当時から海外で活動していたんですね。 日本に住んでいた頃はパリがメインでしたね。そのパリの仕事が終わったらアムステルダムに寄って日本に帰るという流れがあり、その繋がりでいつかはオランダで仕事がしたいと思っていたんです。それでコロナ前にヘアメイク・メイクアップ・スタイリストが所属する事務所がトライアウトを行っていると聞いて応募したんです。240名くらいが募集した中、縁があって僕が受かって移住することになったんです。 ―現在はフリーランスとして活動しているんですよね? その事務所を経て今はフリーランスとして活動しているんですが、尊敬するヘアメイクを含めてあらゆるクリエーターが集まる「VAHQ」とメンバーとよく仕事をさせてもらっています。 アーティストとしての地位が向上。 ―ここからが本題なのですが、仕事をこなす中で日本と海外の違いはありますか? 我々のようなヘアスタイリストやヘアメイク、フォトグラファーといった、スキルジョブの皆さんへのケアがあまりにも違いすぎるかなと。日本の現場だと立ち位置も予算もモデルがトップのような印象で、どんどん削られるバジェットが僕らのような立場の人間に分配されます。日本を決して咎めているわけではないのですが、海外だと現場に入るスタッフが全員が平等。モデルと同じように扱ってくれますね。 ―そうなるとアプトプットするクリエーションにも影響しますよね? そうですね。以前、オーストリアやノルウェーでショーがあり、アムステルダムのヘアチームで参加したときのことです。宿泊先や移動がスムーズかつ快適で、僕らが仕事に全力で向かえられるようにサポートしてくれたんです。 インターナショナルなモデルに対応するスキル力。 ―HAKAHさんのように活躍するなら、スキル面を磨かないといけませんよね? 日本と海外の違いを語るうえで、モデルの違いに対応できるかも重要ですね。海外では美しいブロンドの髪質を持ったモデルだけでなく、アフリカンやエイジアンに加てハーフやクォーターのモデルがたくさんいます。日本の市場では起用しない人ばかりで。柔らかくてブラシを通すとグンと伸びる髪質、黒くて密度が高くて硬い毛質、またアフリカンで同じカールでもクリクリとちぢれ毛を持つ人がいて。特にオランダは質感がミックスされた人が多く、僕はどんな毛質のモデルでも扱えるようになりました。 ―どのように対応できるようになったんですか? とにかく現地の人の髪を触りまくりましたね。僕の場合はいわゆるビーボーイと呼ばれるブレイクダンスやグラフィティをやってる友達の髪をカットしてきたんです。例えばアフリカンの子に満足してもらったら、またその友人を連れてきてくれて。小さい経験かもしれませんが、毎月のようにミックスされたあらゆる髪質に触れられて鍛えられましたね。 一歩足を踏み入れる勇気を持つことが大切。 ―アーティストとしての地位とスキルが向上して、海外に進出して良かったと思えることばかりですよね。 まだまだ発展途上ですけど、その分プレッシャーも相当です。パリではモッズヘアの加茂克也さん(故人)のような先人がいて、その下に我々の先輩がいるからこそ、僕らのような次の世代の日本人でも活躍ができています。でも、オランダだとファッション業界のクリエーターで僕ただ一人なんです。日系の美容室で働く日本人はいますが、ファッションの分野にアクセスしている人はまだ誰もいません。僕がミスをすれば自分だけじゃなく、今後オランダで働こうとする日本人が誰も呼ばれないんじゃないかと。常に現場では「その日にかませられなかったら終わり」という気持ちで臨んでいます。 ―最後に同じ海外のフィールドに出ようという夢を持つみなさんにアドバイスを! 例えちゃんとした給料が保証されていても、日系の美容室に頼ることなく自分自身がやりたいことを突き詰めることが重要ですね。日系美容室のように駐在の人たちを相手に技術を提供することは悪くはないですが、それだと日本で仕事をしているのとあまり変わりません。オランダならオランダ、フランスならフランスのように、アルバイトでも何でも良いので、それぞれの国のローカルにどんどんアクセスして欲しいですね。 そして、自分が本当にやりたいと思える活動にどんどん力を注いでください。それだけでその国が本当に好きになれます。僕はオランダにお世話になっているし、感謝もあるし、この国の文化も含めて大好きです。リスペクトの気持ちを忘れずに一歩踏み出す勇気を持って欲しいですね。 HAKAH 2019年から活動の場をオランダへ。ヘッドプロップの制作やヘアデザインにまつわるクリエーションに携わり、現地で企業を立ち上げてオリジナルのヘアオイルをプロデュース。 HP:ohl-records.com Instagram:@hakahair