憧れの独立・開業 リアル・ストーリー 【第4回】開業届とは?
独立して自分の店を持ちたい! そんな美容師さんのために、独立・開業に向けた心がまえや具体的な手続きを徹底解説。第4回は、美容室のように個人で商売を始める時に提出する「開業届」についてご紹介します! 開業届は税務署に提出する書類 開業届(正式な名前は「個人事業の開業・廃業等届出書」といいます)は、個人でお店などの商売を始める時に、税務署に提出する書類です。 提出しなくても罪にはなりませんが、提出することでいろいろなメリットがあります。詳しくは後ほど説明しますね。 提出期限は、開業した日から1か月以内。提出先は管轄の税務署ですが、今はe-Taxを使ってオンラインで提出できるほか、スマホで提出できるクラウドサービスもあります。 開業届を提出するメリット 出さなくても特に問題のない書類ですが、提出しておけば以下のようなメリットがあります。 ●最大65万円の所得控除 開業届を出す最大のメリットは、確定申告の時に「青色申告」ができる点です。複式簿記が必要になるなど少々難しいのですが、所得税や住民税の対象となる課税所得から最大65万円を引くことができ、大きな節税効果があります。 このメリットを受けるためには、開業届と一緒に「青色申告承認申請書」を提出する必要があります。こちらは開業日から2か月以内が期限ですが、ややこしいので開業届とセットで出すと覚えておくのが良いでしょう。 ●屋号名義の銀行口座 開業届を出しておけば、屋号(店名)の名義で銀行口座を開設することができ、振込や支払いの際に信用されやすくなるなど何かと便利です。 ●赤字の3年繰越 例えば1年目と2年目がそれぞれ100万円ずつの赤字で、3年目に200万円の黒字が出たとします。この場合、最初から青色申告をしていれば、3年目の黒字を最初の2年間の赤字と相殺することができ、課税対象となる所得は実質ゼロとなるので、大きな節税効果が生まれます。 その他にも、家族への給与を経費とみなすことができたり、小規模企業の共済に入れるなど、いくつかのメリットがあります。 国税庁のホームページなども参照し、開業前に準備をしておきましょう。
憧れの独立・開業 リアル・ストーリー 【第3回】美容室とインボイス制度
独立して自分の店を持ちたい! そんな美容師さんのために、独立・開業に向けた心がまえや具体的な手続きを徹底解説。第3回は美容室の経営とインボイス制度の関係をご紹介します。 ------------------ インボイス制度について 最近、「インボイス制度」という言葉があちこちから聞こえてきますね。これは消費税に関する新たな制度で、2023年10月から適用が始まります。まずは簡単に制度の紹介をします。 お店や会社を経営していると、お客さんからお金をもらったり、仕入先や外注にお金を払ったりします。その際、消費税も受け取ったり払ったりしますよね。この消費税は、当然ながら税務署に納める必要があります。 納める消費税の額は、自分たちが受け取った消費税から、支払った消費税を差し引いた額になります。この、支払った分を“差し引く”ことを「仕入税額控除」と呼びます。 また、これまで年間の売上が1,000万円以下の事業者は「免税事業者」として消費税を納める必要がありませんでした。しかし、10月以降は、この「免税事業者」のままの仕入先からの請求書では、仕入税額控除を受けられなくなります。控除を受けられるのは、課税事業者として国税庁に登録した仕入先(=適格請求書発行事業者)からの請求書のみとなります。 これが大まかなインボイス制度の概要ですが、詳しくは国税庁のホームページをご覧ください。 では具体的に、美容室の経営にどのような影響があるのか見ていきましょう。 仕入先は課税事業者? 美容室を経営していると、ヘアケア製品やさまざまな資器材を仕入れると思います。また、宣伝のためのツール制作を依頼することもあるでしょう。 それらの発注先が免税事業者の場合、そこに支払った消費税を差し引くことができず、結果的に納める消費税額が多くなってしまいます。発注先を選定する際に、念のため確認した方がよいでしょう。 美容師を業務委託する場合 お店を大きくしたい場合、自分以外にも美容師を雇うことになると思います。従業員として雇用する場合は特に関係ありませんが、業務委託する場合にはインボイス制度の影響が出てくる可能性があります。 委託する美容師が免税事業者の場合は仕入税額控除が受けられなくなりますので、適格請求書発行事業者になってもらうよう交渉が必要になるかもしれません。 いずれもお店の規模や経営方針によって対応は変わってくると思います。また、急激な負担の増加を防ぐための経過措置も用意されていますので、詳しく調べてみましょう。
憧れの独立・開業 リアル・ストーリー 【第2回】正しく失敗する?
独立して自分の店を持ちたい! そんな美容師さんのために、独立・開業に向けた心がまえや具体的な手続きを徹底解説。2回目にして、いきなり「失敗」の話!? ご心配なく。不安を煽るような記事ではありません! 独立を考えている方の中には「失敗したらどうしよう…」と二の足を踏んでいる人もいるのではないでしょうか。 でも、ちょっと視点を変えてみましょう。大切なのは「失敗しない」ことではなく「失敗しても大丈夫なように備える」ことではないでしょうか。 「備えあれば憂いなし」というように、失敗に備えて心の準備をしておくことで、逆に勇気を持って挑戦できるというものです。 そこで今回は、起業して失敗した人の言葉から、「正しく失敗するための備え」を学びたいと思います。 「起業」というと会社を作って社長になることなので「美容師と関係あるの?」と思うかもしれません。でも「経営する」という点では会社も美容室も同じ。その言葉からは経営者として大切な考え方を学ぶことができます。 ------------------ 「まずは従業員と取引先を大事にしようと。『自分には何も残らなくていいから、とにかく周りには迷惑をかけない』というスタンスで動いていたら、割とうまくいきました」 これはコロナを機に、経営していた飲食店を廃業した人の言葉。美容室を経営していれば、従業員への給与や取引先からの請求の支払いが発生しますね。最終的にお店をたたむことになっても、支払いだけはきっちり済ませること。その姿勢があれば再チャレンジも円滑になる、というメッセージです。 「分業体制下でも資金繰りに関する情報は共有し続けること」 「自分は美容師だから」と、お店の経理を誰かに任せてしまう人もいますが、独立すれば「美容師+経営者」です。お金の流れは必ず把握しておくこと。そうすれば取り返しのつく段階で手を打てるはずです。 「撤退基準を設定し、必要資金が調達できない状況を事前に防ぐこと。僕は従業員の給料が払えなくなったら辞めようと思っていた」 これは「こうなったら店をたたむ」という基準を決めておくことの大切さがわかる一言。実は、経営が苦しくなっても廃業に踏み切るタイミングの判断は難しいのです。あらかじめ、その基準を自分で決めておけば心の準備もしやすいのではないでしょうか。 「会社を畳んだ経験のある『先輩再チャレンジ起業家』のような人材にいつでも相談できる環境を構築すること」 何事も一人で悩んでいては解決しません。お店の経営が苦しくなったとき、何よりも頼りになるのは同じ悩みを経験した先輩です。いざというときに相談できるよう、先に独立したオーナーさんとできるだけ多くの人脈を築いておきましょう。 「私に幸い今仕事があるのは前の会社の繋がりがあったから。会社を畳んで終わりではなく、人間関係や経験はリセットされない。そこは本当に大事にした方が良いですね」 もしお店をたたむことになっても、人生は続きます。取引先や従業員、お客様など、関わってきた人と良好な関係を保っていれば、再スタートを応援してくれるに違いありません。 ------------------ 第2回は経営者の言葉から、失敗に対する心の準備を学びました。次回以降も、独立・開業に役立つリアルな情報をお伝えしていきますので、お楽しみに! <出典>経済産業省 近畿経済産業局「再チャレンジ起業家ガイドブック」
憧れの独立・開業 リアル・ストーリー 【第1回】先輩オーナーに聞く(後編)
独立して自分の店を持ちたい! そんな美容師さんのために、独立・開業に向けた心がまえや具体的な手続きを徹底解説。第1回は、2019年に開業された先輩オーナーに、独立までのステップや気持ちの変化についてお聞きします。後編では、独立に向けた心がまえや考え方を伝授! →【第1回】先輩オーナーに聞く(前編)はこちら ------------------ 前編に引き続き、お話を聞いたのは箕面市船場に店を構える「匠美容室」オーナーの島田さん。丁寧なスタイリングで地域の方から愛されるヘアサロンです。 <SALON DATA> 匠美容室 大阪府箕面市船場西2-7-11 OTCニュープライムハイツ1階 代表 島田 匠さん Instagram:@takumi_salon 自分の「武器」を決める 独立を考え始めたとき、最初に考えたのが「何かひとつ得意な技術を伸ばして、それをベースに独立しよう」ということ。要は自分が勝負できる武器をつくる、というイメージですね。 美容業界のトレンドを見渡して「今はこれが流行っているけど、勝負するならこっちかな」とか。実際に独立した先輩の話も聞きつつ、自分の技術を客観的に分析しました。 また、自分のオーナーとしてのタイプを知ることも重要です。一人でこぢんまりと経営したいのか、スタッフと一緒にやっていきたいのか。それによってサロンの規模やスタッフの採用計画なども変わってくると思います。 円満退職を心がける ほとんどの人は、どこかのサロンに何年か勤めてから独立すると思いますので、独立する時には「退職」というステップがありますね。この時、勤務先と円満に、良い関係のまま退職することが何よりも重要です。 独立して美容室を経営していくには不動産屋さんやディーラー、税理士など多くの人脈が必要ですが、やはり信頼できる人から紹介してもらうのが理想。勤務先と良い関係を保っていれば、いざというときに紹介してもらえる可能性も高くなります。僕もヘアケア剤などのディーラーを以前の勤務先から紹介してもらって、とても助かりました。 円満に退職するために大切なのは、早い時期に相談しておくこと。僕は退職する1年前に「来年の〇月くらいに独立を考えていまして…」と相談しました。いきなり「独立します」と伝えるのではなく、あくまで「相談」というスタンスが大事かな、と思います。 せっかく築き上げた関係性なので、ずっと応援してもらえる方が絶対にいい。僕の以前の勤務先は応援してくれて、この店のオープン時には立派な花を贈ってくれました。やはり、そういうのが大きな励みになりますね。 「なぜ独立するのか」を明確に 母親が美容室を経営していたこともあって、僕も若い時から「いずれは独立する」と当たり前に考えていました。でも、今考えると甘いというか怖いですね。「独立したい」という憧れや、若さゆえの自信だけで独立するのは危険だと思います。 「なぜ独立するのか」「独立した先に何があるのか」をしっかりと考えることが大事ですね。若いうちはやっていけるかもしれないけど、高齢になってもやっていけるのか、ということも想像した方がいいです。そこまで考えて、独立後のビジョンにワクワクするものを感じるなら、ぜひ挑戦してほしいですね。 ビジョンを明確にするためには、情報へのアンテナと、シミュレーションが重要だと思います。美容のトレンドはもちろん、独立に必要な知識や経営者のコミュニティなどの情報はできるだけキャッチしたいもの。また、勤務しながらでも「自分が店を出したら、こんな感じかな」と頭の中でシミュレーションを重ねることで、独立後の姿が明確になってくると思います。 独立して良かったこと 当然ですが、自分が頑張れば頑張った分だけ結果が出ます。あとは自由に経営できるところですね。まだまだ勉強することは多いですが、頭の中にはワクワクする将来があるので、これからも地域に根差して頑張っていきます! ------------------ 第1回は実際に独立した先輩オーナーにお話を伺いました。次回以降も、独立・開業に役立つリアルな情報をお伝えしていきますので、お楽しみに!
憧れの独立・開業 リアル・ストーリー 【第1回】先輩オーナーに聞く(前編)
独立して自分の店を持ちたい! そんな美容師さんのために、独立・開業に向けた心がまえや具体的な手続きを徹底解説。第1回は、2019年に開業された先輩オーナーに、独立までのステップや気持ちの変化についてお聞きします。前編では、開業までに必要となる具体的なステップをご紹介! ------------------ 今回、お話を聞いたのは箕面市船場に店を構える「匠美容室」オーナーの島田さん。丁寧なスタイリングで地域の方から愛されるヘアサロンです。 <SALON DATA> 匠美容室 大阪府箕面市船場西2-7-11 OTCニュープライムハイツ1階 代表 島田 匠さん Instagram:@takumi_salon 物件をさがす 僕は一人でのスタートだったので、それに見合う広さと立地、家賃のバランスを考えながら探しました。もともと大阪市内で開業したかったので、市内の物件を探していましたが条件が合わず断念。今のお店はもともと母が経営していた美容室で、そこをリニューアルする形で始めたんです。 不動産屋さんにも店舗用の物件に強いところなど、いろいろな特徴があるので、先輩の美容師さんに紹介してもらうのがベストだと思います。 物件の候補を出してもらったら、そのエリアがどんな場所か、周りのお店の価格帯や所得層などを不動産屋さんにヒアリングしましょう。近隣に競合店舗がどのくらいあるか、も大切なポイントですね。 僕も実際に周辺を歩いてみて、町の雰囲気や人の流れ、年齢層や時間帯ごとの様子を観察しました。 もうひとつ大切なのは、その物件で美容室ができるかどうか。配管の兼ね合いなどで、内装にすごく費用がかかったりする可能性もあるので、美容室に適した設備なのかどうかも見ておきましょう。 開業資金を用意する 新しく美容室を開くには、当然大きなお金が必要です。10坪くらいの小規模な美容室でも、設備、内装、外装などで500万~600万円はかかるイメージですね。もちろん、こだわり次第で大きく変わってきます。そこに当面の運転資金も必要になってきます。 銀行は少しハードルが高いので、日本政策金融公庫の国民生活事業(旧・国民生活金融公庫)を利用される方が多いと思いますが、しっかりとした事業計画書を書く必要があります。 月々の売上・利益の見込み、半年後や1年後の収支状況の見込みなどが求められるので、細かくシミュレーションしておくことが重要です。 事業計画書の書き方は先輩の美容師さんに聞いたりもしましたが、タカラベルモントさんなどの美容関連企業が開くセミナーも積極的に利用しました。いくつかのメーカーさんが経営セミナーを行っているので、それらを利用するのもおすすめです。 仕入れ先をさがす 美容室の運営には、シャンプー台やスタイリングチェアなどの器材、ヘアケア剤やカラーリング剤などの消耗品が必要です。これらの仕入れ先のルートを探すことも欠かせません。 器材に関しては、ビューティーガレージさんのようなディーラーから調達することが多いと思います。ECで便利に購入することもできますが、ショールームで実物を見て購入すると、より安心ですね。 同じブランドの器材でもディーラーによって価格が変わってくるので、良いものを安く上手に仕入れる努力は必要です。やはり初期費用はできるだけ抑えたいですからね。ただ、スタイリングチェアなどは、お客様の座り心地も大切なので、その辺りのバランスも考える必要があります。 消耗品については、独立までにいろいろな商品を使ってきているので、「これを使いたい」というものがあると思います。僕の場合は、以前に勤めていたサロンのオーナーさんに相談して、ディーラーを紹介してもらいました。 ディーラーの選定も重要で、同じ製品でもできるだけ良い条件で仕入れられるところや、情報をたくさん提供してくれるところを選ぶのがポイント。その交渉力や、紹介してもらうための人脈も欠かせません。 お店のデザインを決める この店は、姉がすべてデザインしてくれたんです。雑誌やモデルサロンなどを見ながら気に入った雰囲気を見つけてイメージを固めていきました。それを基に、床材や壁材を業者のサンプルから選び、パースを作ってもらう、という流れです。 自分がめざす路線にもよりますが、ここでもできるだけ初期費用は抑えながら理想の雰囲気に近づける工夫が必要です。 経営を学ぶ 最後になりますが「自分の店を持つ」ということは「経営者になる」ということです。美容師としての仕事以外に、経理、労務管理、人材採用など、経営者としての仕事がたくさんあるので、それらを学ぶ必要もあります。 ここでも役に立つのが、先輩オーナーの人脈。やはり、実際に経営されている方から学ぶのが一番確実ですね。しかし、私が一番おすすめしたいのはYouTubeです。最近は美容室の経営ノウハウを紹介しているYouTube動画がたくさん公開されていて、有益な情報であふれています。 あとは美容室オーナーが集まるコミュニティに顔を出すことや、税理士さんと良いお付き合いをすることも、経営するうえではとても有益です。 ------------------ 以上、独立・開業に向けた具体的なステップをお聞きしました。 後編では、独立に向けた「心がまえ」について語っていただきます!