人と地球にやさしいシザーケースができるまで。 MASHU×関西SDGsユースアクションプロジェクト【後編】
大阪で美容室を展開する「MASHU」が関西SDGsプラットフォーム団体と共に「SDGsインターンシップ」を実施し、参加した大学生が「人と地球にやさしいシザーケース」を企画・考案。そして「公益社団法人2025年日本博覧会協会賞」を受賞し商品化をしたことで話題を集めました。【前編】ではそれぞれが活動に参加する経緯とSDGs教育の必要性について、【中編】では美容室のSDGsの実態やプロダクト制作の背景についてお話していただきました。最後となる【後編】では苦労が尽きなかったというシザーケースの試作・改良から完成までとこれからのことをお話いただきます。 ▼今回教えてくれたのは (左)MASHU オフィス室長 / 企画部部長 中島 盾さん 2009年にMASHUへ入社。10年近く美容師としてサロンワークの経験を積み、現在は本部業務を主に担っている。 (中)甲南大学 法学部 3年生 村下萌々絵さん 大学2年生の時にSDGsインターンシップに参加。その後「人と地球にやさしいシザーケース」を企画・考案。 (右)関西SDGsプラットホーム 教育分科会SDGSナレッジラボ 事務局長 牧 文彦さん NPO法人Deep peopleの理事長も務める。MASHU・会長増成氏とは長いお付き合い。 ーではいよいよシザーケースについてお伺いしていきたいのですが、課題発見から完成までどれくらいの期間かかったのでしょうか? 牧:「本当に1年くらいはかかったよね」 村下:「そうですね。最初の美容師の方に取材と革職人に伝えるところまでの1往復はインターンシップ中にあったんですが、それ以降は完全に一人でした」 牧:「結構やりとりがありましたね。結局7〜8回は試作を作ったんじゃないかな。ダメ出しは毎回貰っていたし…(笑)」 村下:「指摘いただいた問題点を改良しては実際に美容師の方に使っていただいてて。大体2週間ほど使用期間を設けていたので、やっぱり時間はかかりました」 ーかなり改良を重ねられたんですね! 例えばMASHUさんからはどんな要望があったんですか? 村下:「最初の取材では後ろの部分にスマホを収納できるようにして欲しいと言われていました。でも結局それは使っているサイズも人それぞれだし、1日中使うものだから重いよりも軽い方が良いということで無しに…」 牧:「いろんな要望はあったんですよ。例えばこのベルトみたいなところとか。ここにはダッカールを入れるのに必要だとか、ハサミを入れるのに何個ポケットがいるのかとか、そういう基本的なことは初めの取材で彼女たちは見せてもらってたんです」 村下:「実際に使っているシザーケースを見せていただいて、全ての部品を測らせていただいたり、解体までさせていただいて基礎的な部分は教えてもらっていました」 ー全てのパーツが分解されるみたいですが、他のシザーケースでここまで分解されることってあるんですか? 中島:「多少はあると思うんですけど、ここまでは中々無いと思いますね。障がい者の方が作りやすいように設計されていることで、全てのパーツがボタン化されて解体しやすくなっていると思うんですが、美容師側の機能面を考えてもそれが良かったりする。僕もかつて美容師やってたのでよくわかるんですけど、シザーケースってめっちゃ汚れるんです。あとはハサミを何回も出し入れするので一部だけ切れてしまったり、傷んじゃったりして。そうすると勿体無いけど買い替えないといけないんですよ。だからその汚れたり切れてしまったパーツだけを買い替えることができるっていうのは良いですね。それが作ってくださる場所に還元されているなら尚更」 牧:「本当に障がいを持っている方々が心を込めてこのシザーケースを手作りで作っていただいている。彼らの工賃って本当に低いんですよね。でもこの仕事に関しては普通の人と同じだけの賃金が発生している。だからこういう仕事が生み出されたということが社会に大きなインパクトを与えているんですよね」 中島:「そういうことをこのシザーケースを使っていく中で感じ取ってくれたら嬉しいなって思いますね。やっぱ道具って自分のためにっていう意識になるじゃないですか。みんなそれぞれ色んな葛藤を抱えている中で、これに携わっている自分がこの部分だけ交換してまた使おうってなった時に実はすごく良いことをしているってちょっと気分よくなりますよね。それって目には見えないところだけど、そういう方々の仕事に影響しているんだとか、道具を捨てずに済んだとか、そういった部分で感じるものが出来て欲しいですね」 ー双方にとって嬉しい設計になっている上に良いことを与え合っている関係に気付くとさらに使いがい、そしてやりがいを感じられますね。このシザーケースの試作を重ねていく上で一番苦労したことってありますか? 牧:「ある程度完成ってなった時にサイズはコンパクトなのがやっぱり良かったと言われた時にはもう…全部ゼロに戻るんで…。組み上げていってようやく出来るなあって話していた時だったのでかなり戸惑いましたね。「え、これサイズ変えるの?」って言って…」 村下:「そこから結構…。また何回かやりとりを繰り返しました(笑)」 中島:「本当ひどい話だよね(笑)」 村下:「あとは体格にもよるので、女性と男性で欲しいサイズ感が違ったのも結構難しかったです。女性は肩からかけるんですけど、男性は腰につける。やっぱりそのあたりの違いも大変でした。完成品は肩用と腰用両方で使えるようにしています」 ーそんな苦労を乗り越えて、最近商品化が実現したそうですが、今はどうやって販売されているんでしょうか? 牧:「oveさんのWEBサイトで受注生産という形で今販売しています。大体お届けまでは1ヶ月程度。7色展開でパーツごとに組み合わせ自由なので結構悩まれるみたいですね。あとはオプションでカラー用のグローブを留めておくためのパーツも1980円で販売しています。MASHUプロデュースなのでぜひ使っていただきたいですね」 中島:「買い替えのタイミングもあるかもしれませんが、ぜひ使って欲しいと思ってます!」 ー最後に今後の活動についてお伺いしたいのですが、村下さん自身の今後はどのように考えています? 村下:「個人的な話になっちゃうんですけど、今大学3年生なので就活の準備をしていて。最初はSDGsを取り組んでいる企業で就職できたらなって考えていましたが、自分の中でこの業界で特に取り組みたいっていうものが無かったんです。入社してすぐにSDGs問題に取り組める訳でもないですし…。そういうことを考えた時に公務員を目指して実際に行政に携わる方が自分のやりたいこともできるんじゃないかと思ったので、今は公務員を目指しています。自分ができる範囲でSDGsの活動は続けていきたいです」 ーとても素晴らしいですね。では改めてMASHUさんではどうでしょうか?美容室としてSDGsの問題を今後どうやって取り組んでいきますか? 中島:「まずは一人ひとりが意識をするところが大事だなって今回の取り組みを通して感じました。SDGsってキャンペーンではないと思うので。特別何かしないといけないって思いがちなんですけど、それよりかは普段の営業の中でどれだけの廃棄を削減できるのかとかそういう少しの配慮が一人ひとり出来るようになると良いのかな。細かいところで言えば、タオルをティッシュのようにめちゃくちゃ枚数を使っていた過去があって。その1枚のタオルで何が出来るのかって改めて考え直したんです。結局そういう意識で経費削減に繋がったりとか、それが従業員の待遇に繋がったりとか。それで環境にも良くなるし社員の満足度も上がることになる。そういう細かい部分も含めて、お客様の意見を取り入れながら行動していけると良いですね。今回大学生の方々に気付かされる部分がとても多くて、きっかけを与えていただいたと思っています」 一人ひとりのちょっとした意識の変化が社会にとって良い影響をもたらすかもしれない。そんな気付きを与えてくれたお話でした。2025年の大阪万博も控えていることもあり、さらにSDGsはより注目度も加速していくのかもしれません。貴重なお話を聞かせていただいた牧さん、村下さん、中島さん。ご協力いただきありがとうございました! <SALON DATA> Lumier de Mashu / リュミエドウマッシュ 大阪市北区中崎西2-4-12 梅田センタービル1F西別館 HP : https://mashu.jp/ Instagram:@mashu_group
人と地球にやさしいシザーケースができるまで。 MASHU×関西SDGsユースアクションプロジェクト【前編】
【SDGsとは】 2030年までに世界中にある環境問題や差別・貧困・人権問題といった課題を解決していこうと掲げられた17の持続可能な開発目標のこと。 近年よく耳にするようになったこの言葉。ヘアサロンでもSDGsを積極的に取り組むサロンが多くなっているように思います。そんな中、大阪で美容室を展開する「MASHU」が関西SDGsプラットフォーム団体と共に「SDGsインターンシップ」を実施。そしてこれに参加した大学生が「人と地球にやさしいシザーケース」を企画・考案し「公益社団法人2025年日本博覧会協会賞」を受賞、そして商品化をしたことで話題を集めました。今回は関西SDGsプラットホームとMASHUの関係性、そしてシザーケースが完成するまでの制作の裏側を全3編でお届けしていきます。 ▼今回教えてくれたのは (左)MASHU オフィス室長 / 企画部部長 中島 盾さん 2009年にMASHUへ入社。10年近く美容師としてサロンワークの経験を積み、現在は本部業務を主に担っている。 (中)甲南大学 法学部 3年生 村下萌々絵さん 大学2年生の時にSDGsインターンシップに参加。その後「人と地球にやさしいシザーケース」を企画・考案。 (右)関西SDGsプラットホーム 教育分科会SDGSナレッジラボ 事務局長 牧 文彦さん NPO法人Deep peopleの理事長も務める。MASHU・会長増成氏とは長いお付き合い。 ー今回はお集まりいただきありがとうございます。まずは簡単に関西SDGsプラットホームについて教えていただけますか? 牧さん(以下敬称略):「2025年に大阪万博が開催されますよね。そのテーマが「いのち輝く未来社会のデザイン」ということで、SDGsがテーマなんですよね。それなのに、関西の人たちが全くSDGsを知らない、全くやっていないってなると、大変なことになるじゃないですか。だから色んな団体や企業に入っていただいてこのプラットフォームが発足しました。最初は100くらいの団体だったんですが、今は1800以上の団体で活動しています」 ーなるほど。では今回のお話のメインになるSDGsインターンシップもこの団体で開催されている? 牧:「正式に言えば、関西SDGsプラットホームの中でも色んな分科会活動があって、その中でも「教育分科会SDGsナレッジラボ」というSDGs教育を行っている分科会があるんです。そこで毎年「関西SDGsユースアクション」というものを実施しており、「SDGsを知り、学び、考える機会」と「SDGsのアイディアを考え実践する機会」の2軸でSDGsの達成を子どもたちと目指すというものなんです。SDGsインターンシップもその活動の一環になりますね。 ーMASHUさんはどういう経緯があってこの取り組みに参加されたんですか? 中島さん(以下敬称略):「実は牧さんはうちの会長と20年以上の交流がありましてですね…」 牧:「初めて現会長の増成さんと会ったのはMASHUがそんなに会社自体が大きくない時です。当時、僕は障がいのある方の自立支援をやっていて。その時の教え子が筋ジストロフィーだったんですが、本当に何でもできる子だった。それで増成さんに「こんな子おるんやけどな」っていう話をしたら「パソコン出来るんやったらうちで雇いたい」って言ってくれて。重度障がいのある方の就職って難しかったんですが、その流れですぐに雇っていただいたんです」 中島:「ちなみに今もその方に働いてもらっています。もう20年近くになりますかね。ホームページの管理とか在宅で出来るお仕事がメイン業務です。そういった付き合いもあり、こういう取り組みにもお誘いいただいた」 牧:「増成さんって要するに社会性が非常に高い方なんですよね。だからそういうことをいち早く取り入れる。当時は美容業界で障がい者雇用なんてどこもしていませんでしたから。今回の話も「SDGsうちもやりたいねんけどなんかない?」って増成さんが言うから実現したんです。それで2022年度の「関西SDGsユースアクション」でSDGsインターンシップと「マッシュ・おもろ賞」という企業賞でご協力してもらいました」 ー「マッシュ・おもろ賞」を受賞されたのはどんな方々ですか? 中島:「ヤングケアラーについてのアイデアを考えた学生の方でした。そちらもとても素晴しくて」 牧:「ヤングケアラーっていうのは子供たちが子供を要するに兄弟の面倒を見るとか、要は大人たちが本来担うようなことを子供がやっている問題のことですね。子供の時にしかできないことをちゃんとできる環境を作ってあげるようなアイディアを提案したチームだったんですよ」 中島:「僕らも含めて、そういう実態があるということを知らない人が多いと思うんです。今年の5月で引退しましたが、当時の副社長がそのプレゼンテーションにすごく感動してましたね。そういうアイディアに対して素晴らしいなっていうので選ばせていただいたという」 牧:「彼女らはヤングケアラーたちに対しての活動を今しているんです。MASHUさんのおかげでそういう活躍の場が素晴らしい形で広がっていますね」 ーでは、ここで村下さんにお伺いしたいのですが、この活動を知るきっかけになったことを教えて下さい 村下さん(以下敬称略):「知ったきっかけは、MASHUさんのSDGsインターンシップの募集を大学の掲示板で見かけたことです。それで調べて、この関西SDGsユースアクションのことを知りました。元々SDGsに興味があったので、企業さんと解決に向けた取り組みを実際にできるっていうところに惹かれて。それで応募しました。 ーSDGsに興味を持った出来事って何があったんでしょうか? 村下:「特別何か大きなきっかけがあった訳では無いですが、中学生の頃に授業で地球温暖化について勉強して。当時はよく地球温暖化についてのニュースも見かけていたので、余計に危機感を持ったというか。そこからどんどんSDGsというものに興味を持ち始めました」 牧:「まさに今小中高全てにSDGs教育というものをやっているんですよ。これが面白いんです。講義型ではなく問題解決型の授業で、自発的に子どもたちのやる気を引き出していくような教育スタイルが多い。だから子どもたちにとっても経験に残ることが多いんだと思います」 村下:「確かに、今言われてみればSDGsに関連する内容は作文にまとめないといけなかったり、発表する機会も多かったかも。そこで徐々に興味を持っていったのかもしれません」 牧:「子供たちへの教育って本当に大事なんですよ。子供も10年したら大人になる、だから社会も変わるんです。今回のシザーケースだって、いくら環境に良くて社会貢献が出来るって言われていても、これを選択する意識を育てないと買ってくれない訳ですよね。なのでそういう意識を芽生えさせるためにもSDGs教育っていうものが必要になってくるんです」 関西SDGsプラットホームとMASHU、そして「SDGsユースアクション」の活動に参加した学生たち。前半ではそれぞれの関係性とSDGs教育の必要性に迫りました。【中編】では美容室のSDGsの実態やプロダクト制作の背景についてのお話を聞かせていただきます。 <SALON DATA> Lumier de Mashu / リュミエドウマッシュ 大阪市北区中崎西2-4-12 梅田センタービル1F西別館 HP : https://mashu.jp/ Instagram:@mashu_group